「もうピルは飲んでないの。」
そんなに欲しいのなら…と言ったが、その後もなかなか出来なかった。
レナは悩んでいるようだったが俺は何も言わなかった。
新婚旅行の代わりに、レナは俺が以前留学していた北米へ行ってみたいと言い2人で出かけた。お世話になった教授や病院スタッフなどにもいつかもう一度会っ てお礼が言いたいと思っていたが、今回が良い機会となった。怜と真啓をレナの母親と俺の実家が交代で2週間程見て貰えることになり、病院も無理を言って休 みを貰った。子供を気にせず二人きりの食事デートなどは初めてかも知れない。レナはとても嬉しそうだった。
「1年に一度は夫婦だけで旅行も良いかも。」
教授の家でホームパーティーが開かれた。夫婦二人で出席すると、お世話になった同僚やスタッフなど知った顔も来ていて懐かしい昔話に花が咲いた。
レナは英語が余り上手では無かったが、妻はピアニストで看護師だというと、ぜひ何か曲と言われた。
「何を弾けば良いのかしら?」
シューベルトとアベ・マリア、アメリカの作曲家アンダーソンのタイプライターやそり滑り、ガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーなどを弾いた。とても 喜ばれて、俺は鼻が高かった。アジア人は皆そう見えるらしいが、レナは30をとうに過ぎていたが、顔が幼く見えるので、20台かもしくはそれ以下に見られ ることもあり、小さい頃から老け顔だと雪菜に言い続けられていたレナは
「顔がやっと年齢に追いついたのね。」
と嬉しそうだった。
ホテルに帰り、子供や他の事を気にすることなく毎日暇さえあれば激しく愛し合った。
いつもは静かでおとなしく可愛らしいレナだったが、夜は妖艶でそのギャップに翻弄され、俺はそんなレナに溺れた。朝方まで愛し合い、お互いに疲れ果て、裸のまま抱き合って眠った。
そして…その数か月後、妊娠が分かった。仕事の合間を縫って、レナの診察に付き合った。
「お前が付き添いで、いちいち来なくても良いのに。」
悠木が笑った。同僚の産科医に見て貰うのは、気分的に微妙だったが、レナの強い希望だった。
…流産、出産そして今度の妊娠。
「瑛二さん…とても幸せよ。」
と笑った。
女性は妊娠すると綺麗になると言うが、間近で見ていると
本当にそう思った。エコーで男の子だと分かり、真啓は弟が出来たと嬉しそうだった。
久しぶりの明るいニュースに家族全員が喜んだ。
名前は“怜久(りく)”と名付けた。俺はどうしてもレイの名前が入れたかった。
「生まれる前に準備しなくちゃ。」
レナはそう言って買い物へ出たり、部屋の模様替えをしたり良く動いた。
動き過ぎて俺が心配になるぐらいだった。レナの母親が、出産予定2週間前から、手伝いに来ていた。言い合いをする事もあったが、怜と真啓が不思議と間を取り持っていた。
俺は久しぶりに早く家に帰る事が出来て、皆で夕食を囲んで居る時だった。
「瑛二さん…お腹が痛い…かも?」
と言い出した。
「痛いのか痛くないのかはっきりしろよ。」
俺は少し心配だったが、様子を見た。
うーん…まだ大丈夫だと思うとレナは笑った。
食事も終わり、俺は一緒にテレビを観ていた。レナと母親は夕食後の片づけをしていた。
「お母さん あとは私がするから良いわ。」
「あなたお腹が大きいのに、少し休んだら?お腹も痛いんでしょう?」
「ううん…今は大丈夫みたい。少しは動かないと…。だから大丈夫。」
怜奈は母親に子供達と遊んでて…と笑った。
そして多分今夜だと思うからと言って病院へ持って行く荷物を確認して、風呂に入った。
「どう?大丈夫。」
母親は心配してレナを見たが、
うん…少し痛いけど、まだ大丈夫かもと言った。
「洗濯物畳んでくるわ。」
レナは寝室へ行き、洗濯物を畳んでいた。
子供達は寝る時間になり、真啓はレナにお休みを言いに寝室へ行った。
「お父様!お母様が大変!!!」
真啓が大きな声で俺を呼んだ。
洗濯物の中で蹲るレナが居た。
「おい…お前大丈夫か?」
レナを見ると 冷や汗と浅い呼吸をしていた。
「これは…本物かも…。」
既に10分おきに陣痛が来ていて、慌てて病院へ連れて行くと、6時間後には怜久が生まれた。
余りにもスピード出産と安産過ぎてあっけないくらいだった。俺は産後休暇を貰い、レナを手伝った。
1ヶ月後あの人と、親父が初めて家に遊びに来た。
マンションの大きさに驚いていた。怜久を抱いて嬉しそうだった。
毎日同じようなことの繰り返しが続いた。子供たちはすくすくと育ち、
明るく楽しい生活だった。
「伏見さんには感謝している。本当に怜奈を愛していたんだ。」
そうだ…伏見がいなければ、この幸せな生活は無かった。
「ええ…。啓丞さんには感謝していますし、今でも私の大切な人です。」
そう言ってレナは微笑んだ。
俺と結婚してからというものレナの泣き顔は見ることが無かった。
「あの時一生分の涙を流したんだ。だから…レナの残りの人生は笑顔だけだ。」
そういってレナの柔らかい唇にキスをし笑った。
(おわり)
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そんなに欲しいのなら…と言ったが、その後もなかなか出来なかった。
レナは悩んでいるようだったが俺は何も言わなかった。
新婚旅行の代わりに、レナは俺が以前留学していた北米へ行ってみたいと言い2人で出かけた。お世話になった教授や病院スタッフなどにもいつかもう一度会っ てお礼が言いたいと思っていたが、今回が良い機会となった。怜と真啓をレナの母親と俺の実家が交代で2週間程見て貰えることになり、病院も無理を言って休 みを貰った。子供を気にせず二人きりの食事デートなどは初めてかも知れない。レナはとても嬉しそうだった。
「1年に一度は夫婦だけで旅行も良いかも。」
教授の家でホームパーティーが開かれた。夫婦二人で出席すると、お世話になった同僚やスタッフなど知った顔も来ていて懐かしい昔話に花が咲いた。
レナは英語が余り上手では無かったが、妻はピアニストで看護師だというと、ぜひ何か曲と言われた。
「何を弾けば良いのかしら?」
シューベルトとアベ・マリア、アメリカの作曲家アンダーソンのタイプライターやそり滑り、ガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーなどを弾いた。とても 喜ばれて、俺は鼻が高かった。アジア人は皆そう見えるらしいが、レナは30をとうに過ぎていたが、顔が幼く見えるので、20台かもしくはそれ以下に見られ ることもあり、小さい頃から老け顔だと雪菜に言い続けられていたレナは
「顔がやっと年齢に追いついたのね。」
と嬉しそうだった。
ホテルに帰り、子供や他の事を気にすることなく毎日暇さえあれば激しく愛し合った。
いつもは静かでおとなしく可愛らしいレナだったが、夜は妖艶でそのギャップに翻弄され、俺はそんなレナに溺れた。朝方まで愛し合い、お互いに疲れ果て、裸のまま抱き合って眠った。
そして…その数か月後、妊娠が分かった。仕事の合間を縫って、レナの診察に付き合った。
「お前が付き添いで、いちいち来なくても良いのに。」
悠木が笑った。同僚の産科医に見て貰うのは、気分的に微妙だったが、レナの強い希望だった。
…流産、出産そして今度の妊娠。
「瑛二さん…とても幸せよ。」
と笑った。
女性は妊娠すると綺麗になると言うが、間近で見ていると
本当にそう思った。エコーで男の子だと分かり、真啓は弟が出来たと嬉しそうだった。
久しぶりの明るいニュースに家族全員が喜んだ。
名前は“怜久(りく)”と名付けた。俺はどうしてもレイの名前が入れたかった。
「生まれる前に準備しなくちゃ。」
レナはそう言って買い物へ出たり、部屋の模様替えをしたり良く動いた。
動き過ぎて俺が心配になるぐらいだった。レナの母親が、出産予定2週間前から、手伝いに来ていた。言い合いをする事もあったが、怜と真啓が不思議と間を取り持っていた。
俺は久しぶりに早く家に帰る事が出来て、皆で夕食を囲んで居る時だった。
「瑛二さん…お腹が痛い…かも?」
と言い出した。
「痛いのか痛くないのかはっきりしろよ。」
俺は少し心配だったが、様子を見た。
うーん…まだ大丈夫だと思うとレナは笑った。
食事も終わり、俺は一緒にテレビを観ていた。レナと母親は夕食後の片づけをしていた。
「お母さん あとは私がするから良いわ。」
「あなたお腹が大きいのに、少し休んだら?お腹も痛いんでしょう?」
「ううん…今は大丈夫みたい。少しは動かないと…。だから大丈夫。」
怜奈は母親に子供達と遊んでて…と笑った。
そして多分今夜だと思うからと言って病院へ持って行く荷物を確認して、風呂に入った。
「どう?大丈夫。」
母親は心配してレナを見たが、
うん…少し痛いけど、まだ大丈夫かもと言った。
「洗濯物畳んでくるわ。」
レナは寝室へ行き、洗濯物を畳んでいた。
子供達は寝る時間になり、真啓はレナにお休みを言いに寝室へ行った。
「お父様!お母様が大変!!!」
真啓が大きな声で俺を呼んだ。
洗濯物の中で蹲るレナが居た。
「おい…お前大丈夫か?」
レナを見ると 冷や汗と浅い呼吸をしていた。
「これは…本物かも…。」
既に10分おきに陣痛が来ていて、慌てて病院へ連れて行くと、6時間後には怜久が生まれた。
余りにもスピード出産と安産過ぎてあっけないくらいだった。俺は産後休暇を貰い、レナを手伝った。
1ヶ月後あの人と、親父が初めて家に遊びに来た。
マンションの大きさに驚いていた。怜久を抱いて嬉しそうだった。
毎日同じようなことの繰り返しが続いた。子供たちはすくすくと育ち、
明るく楽しい生活だった。
「伏見さんには感謝している。本当に怜奈を愛していたんだ。」
そうだ…伏見がいなければ、この幸せな生活は無かった。
「ええ…。啓丞さんには感謝していますし、今でも私の大切な人です。」
そう言ってレナは微笑んだ。
俺と結婚してからというものレナの泣き顔は見ることが無かった。
「あの時一生分の涙を流したんだ。だから…レナの残りの人生は笑顔だけだ。」
そういってレナの柔らかい唇にキスをし笑った。
(おわり)
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