暫くして、病棟師長から呼び出された。

「学会へ行ってみない?」

…学会?って医者の…ですよね。

「そう…実は小鳥遊先生がスピーカーをするんだけど、お手伝いを探してるの。有給消化になっちゃうけどあなた行ってくれない?」

…新人じゃ無理だし、あいにく私も行けないから。

「はい…わかりました…。」

…じゃあその日休みあげるから、それでシフト組むから宜しく。


小峠医師は相変わらずしつこかった…が医局長は約束通り?
さりげなく冬から小峠を引きはがしてくれた。

小峠とは違って、まるでポーカーフェイスの医局長。
その後は何事も無く、しかし毎日が忙しく過ぎて、
冬は、あれは夢だったのか?と本気で思うようにさえなった。

…夢でもちょっと得した気分♪


患者の検査だしの為、エレベーターに乗り込むと、
偶然、小鳥遊医局長が先に乗っていた。


「お疲れ様です…。」

私は挨拶をして乗り込んだ。

「ねえ冬ちゃん…うちの息子の嫁に来てよ。美人だし、しっかりしてるし、歳は少し上だけど…でも今の時代そんなのあんまり関係ねーだろ?」

姉さん女房ですか?と冬は笑った。

「面会に来た時にさ、冬ちゃんが可愛いくて一目ぼれしちゃったんだって。」

…可愛いって言われる年でも無いのだが。

「電話番号聞いといてって言われちゃったんだよね。」

「息子さんっておいくつでしたっけ?」

「今年で20歳になる。大学卒業したばかり。」

…姉さん女房…それもかなり上。


「あら…そうなんですか?かなりの姉さん女房になりますが…宜しいでしょうか?」

冬は笑った。小鳥遊はにこにこと冬達の会話を聞いていた。
エレベーターはゆっくりと降りていく。

「それに…私が息子さんの嫁になったら、タバコ吸うな、酒飲むな、油ものは控えて…とか煩い嫁になりますよ?」

「そんなことは判ってる…。」


「それに喫煙所で一緒になる外科患者の●●さんとあとほら…701号室の若いにーちゃんも冬ちゃん狙いだっていうからさ、俺は親として人肌脱いでやろうと思ってさ。」

「月性さんは人気があるんですね。」

小鳥遊は笑った。

「そーだよ。優しいし可愛いしさ。だから電話番号教えてくれよ。頼むよ。」

冬は少し考える振りをして、じゃあ息子さんに直接私に言って下されば、考えますとお伝え下さいと笑った。冬は患者に伝えても良いように捨てメールを持っている。余りしつこい患者には退院する時に、そのメアドを渡す。

「僕だって月性さんの電話番号知らないのに…ずるい。」

医局長が口を挟んだ。

「そりゃ小鳥遊先生は奥さん居るんだから駄目だろ?それなのに看護師に手ぇ出しちゃまずいでしょう。」

「うん…確かに。」

3人で笑った。

「あ…月性さんMRのオーダー出しておいたから、出来たら当直室に持っていて下さいね。」

と言って、医局長はエレベーターを降りて行った。
あ…そっか。今日当直か…。

「冬ちゃん…小鳥遊センセはカッコ良いけど、奥さん持ってるひとじゃぁ駄目だ。」

冬はそうですね駄目ですよねと言って笑った。



…どうやって先生と連絡とろう。
医者は院内携帯を持っているが、そこに電話したとしても、周りに医者が居るかも知れない。


そんな心配は無用だった、日勤終わりに

入院3件…。

「もう…マジで…信じられない。」

看護師たちは口々に文句を言った。

「なんで、師長さんはベット空いてるからって他科取っちゃうかなぁ。」

男性看護師が言った。

「しかもその後 脳外2件 ダブルでヘビーだし。マジで、月性さんも文句言った方が良いっすよ?」

他のチームの男性看護師が言った。

「きっと脳外だったら全身管理も得意だしとでも思ってんだよ。」

卒後3年目看護師が言った。

「私も手伝うから、目標20時!」

えええ…月性さん絶対そんなの無理だよ…。

「じゃあ…もしそれまでに終わらなかったら、今度ご飯おごっちゃう♪」

冬は笑った。心が荒むくらい忙しいこういう時こそ、遊び心が必要だ。

「マジで?今日日勤8人もいるっすよ?全員に奢ってくれるの?」

…あ…そんなに居たのか…

「飲みじゃないからね。ご飯ですよ?ご飯なら良いわよ♪」

「月性さんの奢りで、一緒に行ってくれるんだったらゆっくり仕事しよう」

「コラ…そんなの駄目」

冬は、若い子にも先輩達にもよく食事に誘われたが、習い事が多くてなかなか付き合えなかった。
皆にその理由も言わないので、彼氏とデートしているという噂になっている…面倒なので、否定せずにそのままにしていた。

小鳥遊医局長が病棟にあがってきた。

「みんな本当に…済まないね…。後でピザ頼むから許して…」

笑って言った。

「小鳥遊先生がそう言うなら私頑張る!」

若い子たちも一斉に張り切った。

他の医者は外来がまだ忙しいと言って病棟には上がってきていなかった。

「出てない指示や処方が合ったら、僕が出しますから言って~あと入院指示書くから…担当看護師さん誰~?」

小鳥遊は動きが早く無駄が無かった。こういう忙しい時には、そこに居るだけで、士気があがる。
流石若いのに医局長になっただけはある。新人二人が入院を取ったが、時間が掛かりそうなので、わかるところは全て手伝った。1時間後には看護計画を立てるだけの状態になった。

「うわぁ…凄い…まだ7時前だぁ。今日は小鳥遊先生が居てくれたし、月性さんにご飯奢ってもらえるし、沢山手伝って貰ったから早く終わったぁ~。後は看護計画だけだから楽勝。」

日勤と準夜勤者にピザが届いた。狭い休憩室で食べた。冬はさっさと食べ終え、二人分の看護計画を立てた。冬は後輩にダラダラ仕事をさせるのは好きじゃ無かった。新人がピザを食べ終わりナースステーションい戻って来る頃には患者2人分の看護計画も終わっていた。

「すげー流石 月性さん♪」

男性看護師が言った。

「月性さんーほんとに済みませぇん。」

新人2人が冬にお礼を言った。

「自分が指導する立場になったら、同じように新人を手伝ってあげてね。」
それに、ただ立ててあげたわけじゃ無いわよ?術後はどんな合併症があるのか、あなた達が考えるんですからね?あなたたちの担当患者にしたから、頑張ってね。」

冬は初めて新人に患者を持たせたいと思っていたが、入院から見ることが出来るし、丁度良いと思った。

「えーっ。どうしよう。大丈夫かなぁ。」

不安そうに顔を見合わせた新人。

「大丈夫じゃない時は先輩看護師にすぐ聞く。だって患者さんに迷惑が掛かってしまうでしょう?だから教えて貰ったことの裏付けをする為に家に帰ってから教科書を見るの。それで次回、同じような患者さんが来たら出来なかったところも少し出来るようになるかも知れないじゃない?」
…手伝ってあげるから大丈夫♪大丈夫♪

冬は優しい笑顔で新人達に言った。
さっ片付けをして一緒に帰りましょう~♪


小鳥遊はそれをじっと見つめていた。


冬はプライベートでの付き合いは悪いが、それでも他の看護師と仲が良い。仕事が正確で早いことから信頼されていた。そして何よりも、本人はさっぱりした性格で出来ない医者であれ、新人の看護師であれ誰にも同じように親切に接し感情的に怒る事は殆ど無かった。

そんな冬の事を就職した頃から知っている小鳥遊は、彼女の仕事ぶりをいつも見ていた。誰に対しても表裏が無く、時にははっきりした物言いを医者にもする…昨日今日の戯言で冬に声を掛けたわけでは無いことを本人に伝えたかった。

…そっか…今日返事しなくっちゃいけなかったんだ。

公私混同しない自信はあったが、もしも誰かにばれたりしたら、私どころか医局長も困ったことになる。


私がお先に~と帰ろうとすると、看護師の休憩室に居た医局長が、ちょっと当直室へ行ってくる~と出て行った。

…気まずい。合わせて来た。


小鳥遊は先にエレベーターに乗り込み、後から冬が続く。

誰が乗り込んでくるか分からないので、話は出来なかった。

チーン


地下に着いた。

B1には看護師のロッカールームと当直室…霊安室やリネン室、MRにCTなどがあった。

小鳥遊がまず当直室へと入った。
冬も周りの様子を見ながらその後に続いた。


「ほら…君だとこんなにスムーズにいきました。やっぱ凄いですね。」

小鳥遊は笑った。

「小鳥遊先生…私…先生のことが好きです…が…。」

冬が言い終わらないうちに、小鳥遊は唇を塞いだ。

慌てふためく暇も無く、濃厚な口づけへと変わっていく。


「ちょ…ちょっと待って下さい…。」

私は慌てて小鳥遊から離れた。

…キスがとても上手…はっ…私何を考えてるんだろう。


「小鳥遊先生のことは好きですが、後々関係が上手く行かなかった時にお互いが、気まずくなるのは嫌で…。」


冬は真っ赤な顔のまま俯いた。


「月性さんは、そんなことで気まずくなるんですか?」


小鳥遊は面白そうに言った。

「いいえ…寧ろ冷静に対応できると思いますけれど…でも…。」

「だったら…良いじゃない。僕も平気ですから。」

小鳥遊は、真面目な顔で言った。

「遊びじゃないけど、遊び…僕の言って居る事分かるかな?」


「…はい…何となくは…。」


要するに小鳥遊は、遊びってことだと冬は捉えた。

「僕は君を束縛しないし、僕もされたくない。」

…やはり都合の良い女ってことだ。

冬は憧れていた小鳥遊に声を掛けて貰い、嬉しかったが、と同時に少し寂しくもあった。結局は他の医者と同じ遊びで付き合いたいだけなんだ。(元)愛妻家で、今まで浮いた話が今までに一切無く、仕事が出来る小鳥遊医局長ですらそうだったんだと理解した。

…でも見え透いた嘘をつかれるよりも潔い。

冬は仕事や周りとのかかわり方も、
小鳥遊と自分は似ているように思っていた。

…仕事が一番、自分の時間2番、3番目が恋愛…ぐらいの感じなのかな?

冬自身、今迄そのように過ごしてきた。
しつこい彼氏はすぐ捨てた。
逆に、冷めたヤツだと冬が捨てられたこともあった。


「判りました…。」


そういった途端に、また小鳥遊は唇を冬に重ねた。
小鳥遊の背が高いので、冬は見上げるような格好になり、小鳥遊がそっと冬の火照った頬を両手でそっと挟んだ。

温かく柔らかい唇は最初は優しく、冬の唇の上で遊んでした。やがてその唇は冬の唇を甘噛みし、
悪戯に動き、冬を誘っていた。最後は激しく、小鳥遊の長い舌は冬を探して口の中で動き回った。

…ん…ん…。

そして、小鳥遊の大きくて繊細な手は冬の胸にそっと置かれた。その芳しい刺激に久しぶりに秘部が潤いだした。

冬の舌がとうとう小鳥遊の後を追いかけようした時だった。

「はい…今日はここまで…。」

小鳥遊は突然キスを辞め、この続きは、学会の時にしましょう…と笑った。

濃厚なキスの余韻は冬の唇に長い間残って居た…。
こんな官能的で痺れるように甘いキスは初めてだった。
冬は、マンションへと帰り、風呂に入った。

そして久しぶりに、自慰に耽った。

勿論…小鳥遊を思い出しながら…。